× CLOSE

【千葉】驚愕の野菜づくり!元サラリーマンがこだわる味と品質の秘密とは?

脱サラして先鋭的な農家へ転身 kiredoを立ち上げた栗田さん

昨今、家業が農業でなく、まったく異なる仕事に就いているのに農業に興味を持つ人は少なくない。

自然に囲まれたい、エコロジーに関心がある、など理由はひとそれぞれだ。今回、ご紹介するのは千葉県でkiredo(キレド)の屋号で農家を営む栗田貴士さん。彼が農業を始めたきっかけのユニークさに魅かれ、千葉県酒々井町の彼の農園まで話を聞きに行ってきた。

エンジニアを脱サラして千葉県で二つの畑を運営

東関東自動車道の佐倉ICを降りて、20分ほど。キレドの畑が見えてきた。出迎えてくれたのは、個性的だけど笑顔が印象的な男性。この人がキレド代表の栗田貴士さんだ。

現在は、四街道にある3000坪の畑と、酒々井の1000坪の畑で野菜を育てているほか、奥様とギャラリーを兼ねたカフェ「キレド ベジタブル アトリエ」(千葉市若葉区)も運営している。

栗田さんの農業の特徴は、一般的な市場流通の枠にはまらない独自の収穫や品種にある。野菜は通常、市場や農協に納められて、小売店を通じて家庭に届く。スムーズに流通に乗せるためにも、一般家庭のニーズに応じた、使い勝手のわかっているおなじみの野菜が主流だ。

が、栗田さんはたとえ知られてなくても、自分がおいしいと思う野菜を育て、収穫時期も常識にはこだわっていない。おいしい食べ方を知っているものなら一般的な収穫時期を過ぎてもさらに生育し、実や茎、花などさまざまな状態で出荷する品種もある。「野菜の一生を見ています」と栗田さん。おいしいものが好きだからこそ、野菜の生育を見つめて、お決まり以外の旬や楽しみ方を追求しているのだ。

栗田さんが育てているバターナッツ 写真提供:kiredo

まずは栗田さんの経歴から話を聞いてみた。

栗田さんは千葉県四街道育ち。高校生までは千葉県で暮らし、福岡の大学に進学。高校から音楽活動をしていたこともあり、音楽関係の仕事に就こうと大学では音響を専攻し、大学院まで進んだ。大学卒業後は石川県の会社に就職。

会社員時代は液晶テレビやディスプレイの開発、これまでにない斬新なモニターのコンセプトワークなど、エンジニアとしてITや工学分野の仕事に携わっていた。これまでの経歴は農業とは真逆。経歴からは思いもよらぬ農業との結びつきは、趣味の食べ歩きから始まる。

イタリア、トスカーナ原産のカーボロネロ(黒キャベツ)。「煮込みや炒め物に向いています。加熱すると海苔っぽい味がします。トスカーナの伝統料理リボリータ(※)に欠かせません」
※白いんげん豆とカーボロネロの煮込み料理

サラリーマン生活をしながら、食べ歩きが高じて農業の世界へ

「もともとおいしいものが好き、食べ歩きが好きで、フレンチやイタリアンなどのレストランへ足を運んでいました。するとフレンチのお店で野菜ばかりのフルコースをシェフが提案してくれたことがあったんです。メニューは見たことのない野菜のオンパレード。僕はスーパーに置いてある野菜しか知りませんでした。食べる前は、フレンチなのに肉も魚もないなんてどんな料理なんだろうと思っていたので、すごく衝撃的で、野菜だけなのに大満足! この個性的なメニューをきっかけに、その店に通うようになったのが26歳、27歳ごろのことです」

店に通い始めると、シェフとも親しくなり、あるとき「野菜を卸してくれている契約農家に行くので、一緒にどうか?」とのお誘いが。誘われて畑に行くと、中野禧代美さんというおばさんがいた。

「このおばちゃんが圧倒的に面白くて、非常にパワフルな方でした。もともと人が好きな性格なので、この人となんとか仲良くなりたい! と思ったわけです。そのとき、『いつでもおいで』と言われたものの、農家さんは忙しいだろうし中野さんの休みもわからないので、行きづらいし、どうしようかと躊躇してたんです」

市民農園をきっかけに石川県でも有名な農家さんと交流

中野さんと友達になりたい気持ちはあるが、自然なきっかけがつかめないと悩む栗田さんはある広告に目を止める。地元の新聞で金沢市が運営する市民農園が利用者を募集していたのだ。

「これぞ、おばちゃんと仲良くなるきっかけ!」と、野菜作りのノウハウを教わりにさっそく中野さんに会いに行くことに。

中野さんは農協や市場ではなく、石川県内の有名なレストランに野菜を卸している、独自の運営スタイルを持つ方で、石川県内でも有名な農家だった。丸一日かけて、いろいろな野菜作りを学んだうえ、肥料や苗も分けてもらい、栗田さんは市民農園で農業の第一歩を踏み出したのである。

「そこまでしていただいては、簡単にやめられません。最初の1か月だけは、つらくても毎日(市民農園の)畑に通おうと心に決めました」

それまでの栗田さんの生活スタイルは典型的な夜型。農園なんてできないかも、と不安を感じつつも、早起きを続けると、朝5時に起きて5時半に畑に到着する生活に慣れてしまった。朝は7時まで畑で作業ののち、一度帰宅してから出社する毎日が続き、いつしか生活は畑中心に。

有休をとってでも畑を守る日々 軸足がすっかり農家に

「最初は夏野菜から始めました。市民農園は田んぼを畑に転用した劣悪な土地なのに、中野さんに教えてもらったとおりに育てると、最初からおいしく作れたんです(笑)」

周りの区画はお年寄りばかりだったので、若いということでチヤホヤしてもらえるなど、畑仕事はどんどん楽しいものになっていく。ついには土日が雨天とわかると、金曜に有休をとって雨の降る週末の前に作業をするほどの、のめり込みようだったというから、おもしろい。

2年ほど菜園を続けて、周囲からも出来栄えをほめられるようになったころ、栗田さんに転機が訪れた。

「人に貸していた千葉の実家が空くことになりました」

会社ではよいポジションを与えられ、斬新な企画やコンセプトワークなどに携われて仕事に不満はなかった。一方で、菜園のおもしろさに魅かれ、天職について考え始めてもいた。もし、農業を本格的に始めるとなると、千葉の実家に移れば家賃が掛からない。実家が空くと聞いて千葉においしい野菜作りをしている有名な農家がいないかを検索したところ、ある人物が見つかった。

千葉で師匠としたい農家を見つけ脱サラ

千葉で栗田さんが見つけたのは、エコファームアサノの浅野悦男さんという人物。まずは電話で弟子入り志願をしたところ、「ひとまず会いに来てみてはどうか?」との招きがあった。実際に対面をした結果、栗田さんは研修生として受け入れられることとなり、退社を決意するに至る。これが2010年9月のことだ。そして、2011年1月に会社を円満退社して浅野さんのもとへ。

2月の苗作りからほぼ毎日通い、質問をしては教えを乞う日々が続く。

「もともと、自分たちはかじっただけでおいしいと感じる野菜を作っていると考えていました。カットしてオリーブオイルで和えるだけでおいしい。なのに、なぜ、そんな野菜がレストランにしか卸されていないのか? 僕が買いたいし、家庭向けにも生産したい」

浅野さんの仕事はレストラン向けの卸し。「なぜ家庭向けに売らないのか?」と栗田さんが浅野さんにしつこく言い続けていたある日、ちょっとした出来事が起こった。

「浅野さんは棒で畑に線を引き始めて『そこまで言うなら自分でやってみなさい。ここから先は自由に使えばいい。自分でやらないとわからないから。機械や冷蔵庫は自由に使って構わない』と言われました。浅野さんが私のことを考えてそうしてくれたのだと思います。修行を始めて半年のことでした。本当にありがたいことです。いま思い返してもちょっと涙がにじんでくるほど。そこで考えた屋号が『kiredo(キレド)』。浅野さんのお手伝いをしながら、自分で作った分を買ってくれるお客さんを見つけなくていはいけません」

それからは浅野さんの手伝いをしながら、自分の区画で野菜を作り、家庭向けに販売するキレドの事業も走り出す。

「野菜づくりに関しては浅野さんを質問攻めにしてノウハウを学びました。野菜の味を知ってもらうために試食会のようなイベントを行って、お客さんの開拓もしました。途中からは並行して、独立に向けて自分の農地探しも必要でした」

師匠の畑で野菜を作って、自分で売ることが決まったとき、栗田さんは畑でソラマメとチーズ、ワインのパーティーを開き、身近にいるおいしいもの好きを集めた。パーティーはイタリア、ローマで5月1日に行われるソラマメとチーズのお祭りを模したもので、目的は畑の面白さと、野菜のおいしさを知ってもらうこと。このときは浅野さんも参加者に畑ツアーをしてくれてパーティーを盛り上げてくれた。

いよいよkiredo(キレド)として農業で独立

2012年9月、ついに四街道に畑を見つけて独立が決まった。最初の2年間は修行と思っていた栗田さんにとって少し早い独り立ちだ。

畑を見つけるまで簡単ではなかったが、運はよかった。栗田さんによれば、農業を始めたい人は自治体の農業委員会に相談に行くのが一般的だそう。農家を始めるには5反(=1500坪)の土地を確保する必要がある。栗田さんの場合は、運よく農業委員会の紹介で3000坪の土地が借りられた。これは奇跡的ともいえる事例だという。

キレドの畑が始まると、いままでのノウハウだけでスムーズにいくわけではなかった。雨の溜まり具合、風の通り具合は、日の当たり方などは、一年を通して実際に作物を育ててみないことにはわからないからだ。

キレドのビジネススタイルは、師匠である中野さんや浅野さんと同じく、農協や市場、直売所に卸すのではなくユーザーへの配送。師匠たちの得意先はレストランなどの店舗だったが、栗田さんは自分自身の思いから、お店だけではなく個人客への卸しも行っている。

ソラマメは豆だけでなく、花も出荷する。花も、ほのかにそら豆の風味がして、初めて食べたがおいしくて驚いた

ミュージシャン型農家!? マルシェで野菜を売り評判になる

活動を続けていると次の転機がやってきた。自分たちの好きなものを集めてマルシェを主催している人たちから出店の依頼が寄せられるようになったのだ。

「僕はマルシェやイベントへの出店営業を”ミュージシャン型”と呼んでいる」と笑う栗田さん。聞けば栗田さんの先輩がバンバンバザールという名でバンド活動を行っていて、全国ツアーをしているそう。

「バンバンバザールを見てうらやましかったのは、ファンを喜ばせることで成り立っている点です。年に1度地方を回り、各地のファンの前で演奏する。自分たちのクリエイションを磨き、それを待ってくれているファンを必ずライブで満足させ、何年かに1度はCDも持っていく。ファンのほうを向いてクリエイションをがんばっていれば成り立つというスモールビジネスです」

店舗を持って、客が来てくれるのを待つのではなく、ミュージシャンは自ら出て行ってパフォーマンスを披露し、その出来によってファンを開拓する。農家でもそんなスタイルが成り立つと言う。

「いいマルシェで、いいパフォーマンスを見せると、また次のマルシェや違うマルシェに呼んでもらえます。これだと同じ価値観の人と出会いやすいのです。ファンを作っていくというのでしょうか。浅野さんからも『1%のファンを作りなさい』と言われていました」

菜の花

島オクラ 写真提供:kiredo

ワイルドフェンネル 写真提供:kiredo

3000坪の畑で何世帯分の野菜が収穫できる?

畑のベンチに腰掛けながら話を聞いていると、栗田さんがふいにクイズを出してきた。「四街道の3000坪の畑で一週間にどれだけの世帯分の収穫ができると思いますか?」というのだ。正解は一週間に100世帯分。

「つまり、がんばっても一週間に出荷できる100世帯としか、お付き合いができません。やみくもにお客さんを増やすのではなく、気持ちのいいスモールビジネスのために無理をして生産をしない」のだという。

ここで話を栗田さんのヒストリーに戻そう。生産が軌道に乗り始めると、次に栗田さんはファストフードに取りかかった。

「おいしい野菜って究極のファストフードだと思っているんです。素材がよければ、切ってオイルを和えるだけ、グリルするだけで十分、立派な料理。手間をかけなくていいし、栄養もあるしヘルシーだし、究極じゃないですか(笑)」

奥様が栗田さんの野菜を使ったファストフードをキッチンカーで売り始めたところ、これが人気となったのだ。受けが良くてファンが増えると、今度は仕込みをする場所が必要になる。お店を探していると運よく路面店向きのいい物件が見つかり、2015年4月にカフェをオープン。これが現在、奥様とともに運営するキレドベジタブルアトリエだ。

自然が相手だけに畑仕事には苦労も

なにもかもが順調に見えるが、苦労はなかったのか聞いてみた。

「1年目にかぼちゃを200個植えたら、台風ですべて飛ばされてしまいました。運がよかったのは苗を買い直してやり直しができる時期だったことです。でも農業は自然相手のものなので師匠たちにも起こるような失敗と言えます」

農業と言うと過酷な職業のイメージを持つ人も多いのではないだろうか。しかし、栗田さんはそんな苦労を微塵も感じさせない。楽しくて仕方がないと表情や言葉からあふれ出ている。栗田さんが農業を通じて伝えたいことはなんなのか?

「ちゃんと都市に畑が残る。自分の活動を通じて畑を残せればいいなと考えています。また、異業種から農業を始める人はオーガニックなどに行きがちですが、安心、安全だけが拠り所では差別化できないし、長く続かない気がします。

それ以上においしいものを食べるワクワク感が大事だと思うんです。おいしいものを同じ価値観の人に届けるシンプルな考え方は、おもしろいし、楽しい、そしておいしい。そうした考え方に目を向ける生産者が増えれば、いいと思います。キレドベジタブルアトリエは、農家+カフェで洋服や器も売っています。自分が好きかどうかが大切です。今後はミュージシャン型のビジネスを脱却して、地元と接点を持って活動を広げたいですね」

ロメインレタス。強火にかけたフライパンでシンプルに焼き付けるとおいしいとか。

キレドはライフスタイルに寄与する野菜づくりを行なっている

栗田さんの生き方は農業にフィットし、提案は多くの人の共感を呼んでいる。キレドでは野菜を届ける際には、それぞれの野菜がどんな料理や調理法に向いているかを書いた説明を添えているそうだ。おいしいものや楽しいことが好きな栗田さんらしいアイデアだ。

取材時も以下のような調理例を多数うかがうことができた。

ヨーロッパ原産の黒大根は水分が少ないので、おでんのような煮物に合う。「日本の大根は水分が多いですが、黒大根は水分が少ないため出汁がよくしみ込むんです」

ルッコラの花芽は刺激的な風味に加えて甘みも感じることができ、生ハムを巻くだけでいい一品になる。また、ローストビーフの上にのせてバルサミコソースをかけると美味い。「スーパーでよく見かけるルッコラは水耕栽培なので、あっさりとした風味です。kiredoでは土で育てているので、味が濃く、存在感が強いです」

ターサイの菜花はザクザクに切ってオリーブオイルと混ぜて寸胴で煮てできたソースにパルミジャーノを混ぜて使う。

野菜を使う以外にもアトリエからは、さまざまなライフスタイル提案が発信されている。野菜が単なる食材ではなく、ライフスタイルのひとつの要素として意味を持たせた栗田さん。興味を持たれた方は、キレドの野菜を買ってみるもよし、キレドベジタブルアトリエに行くもよし。まずは、ユニークな栗田さんの提案に触れていただきたい。

kiredo(キレド) 詳細

ホームページ http://www.kiredo.com/

kiredoの野菜はメールで注文ができます。

メールアドレス kurisatan@gmail.com

6種類 1500円

8種類 2000円

10種類 2500円

送料 700円(関東)(夏季はクール便料金が+250円)

毎週や隔週、月1などの定期宅配の他、スポット(一回限り)でも対応しています。このほか、飲食店向けにはリストから選んでもらう単品販売もしています。

取材・文/Beautiful Camping
【PROFILE/Beautiful Camping(ビューティフルキャンピング)】
本業はメンズファッション誌、ファッション広告の編集・執筆。2011年春から、キャンプ空間をスタイリッシュに演出する楽しみ方「ビューティフルキャンピング」を広めようと活動中。
HP http://beautifulcamping.net/
Facebook https://www.facebook.com/BeautifulCamping
Instagram https://www.instagram.com/beautiful_camping/

撮影/トコロハヤト


  • この記事が気に入ったらcazual(カズアル)に いいね! / フォロー しよう

  • 漏れない”超精密タンクキャップ”!
  • おすすめ!しょうゆ香るアウトドアソース

クラウドファンディングサイト「Fannova」

クラウドファンディングサイト「Fannova」

L-Breath

新着記事

PAGE TOP
COPYRIGHT © SHUFU TO SEIKATSU SHA CO.,LTD. All rights reserved.