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写真テーマは「外国っぽく見えること」 地方を巡る写真家が伝えたいものとは?

切り口は”地方” ポイントは”外国っぽく見えること”

いまやスマートフォンのカメラの発達やSNSの普及によって、誰もが情報を発信できる時代である。写真撮影がイージーなものとなるなか、フォトグラファーの本質を感じさせる女性にお会いした。

彼女の名は林田真季さん。日本の各地を巡り、地方の風景をテーマに活動を行っているフォトグラファーだ。

彼女の作品は、地方を切り口としていながら、被写体が一目でどこと特定できるようなものではない。聞けば「外国のように見える風景」をポイントにしているという。不思議な作風とも思えるが、まずは彼女の写真との関わりから話を聞いてみた。

林田さんは1984年兵庫県生まれ。お父さんのすすめで高校の時にはすでに一眼カメラを手にしていた。

「お絵かきが好きで、小学生のときに絵画教室に毎週日曜日に通っていました。写真はその延長だと思います。父が新しいもの好きだったので、小6Macに触れていました」。

林田さんの最初の転機は高校三年の時。一年間のアメリカ留学を経験し、美術の一環で写真クラスを専攻したのだ。授業では写真の歴史、現像方法、構図の撮り方など、撮影の基礎をひと通り学ぶことができた。


林田さんの作品ギャラリー「JAPAN-GO-ROUND


五島列島を訪れたことで地方を見る目が変わった

その後、2007年に関西学院大学を卒業。現在は会社員として勤務しながら、休日にフォトグラファーとして活動している。地方をテーマにして作品を撮り始めたのは5年前。2013年夏に長崎にある五島列島の小値賀(おぢか)島に行ったのがきっかけだ。

「長崎県出身の友人の誘いで小値賀に連れて行ってもらい、ホームステイのような民泊を体験しました。文化や言葉が違い、まるでアメリカに行ったときのような気分が印象に残ったのです。あわせて訪れた野崎島(注:小値賀島の隣に位置する)は現在、無人島。かつては人が暮らしていましたが、電気が通るようになるとお金が必要になり、みな出稼ぎに出てしまったため無人島になった場所です。土地の話がまるで外国のようで学ぶことがありました」

それまではアメリカに憧れ、アメリカがいちばん良い場所と思っていた林田さんの心境は小値賀滞在をきっかけに変化。小さい島に豊かさがあるのではないかと考え始めることになる。当時、日本は2020年の東京オリンピック開催が決まる前で地方創生もいまほど進んでいなかった。

「自治体レベルでは長崎の教会群を世界遺産に登録しようという動きもあったようです。実際に町の人に聞くと、世界遺産になったことで人が押し寄せ、素敵な文化が失われるのではないかとの心配から、地元の文化を正しく理解・尊重してくれる人に来てほしいとの思いを感じました」


林田さんの旅先スナップ「長崎・小値賀」

小値賀の民泊では郷土料理のかんころ餅作りを体験

魚釣りも体験した

漁船に乗り、釣りではなくクルージングへ


林田さんは五島列島各地(長崎県)以降も、八戸(青森県)、阿蘇(熊本県)、小松(石川県)、伊根(京都)、城崎(兵庫)、東尋坊・三国(ともに福井)など、日本各地を精力的に巡っている。写真を通じ、各地の魅力を伝えようと考えるが、当初は試行錯誤もあった。活動を続けるなかで、2015年ごろから撮影や伝えるべきテーマの方針が徐々に定まってくる。

「当初は小値賀がいい、八戸がいいという風に伝えようと思っていました。しかし、いまは『○○がいい』と言うとそこに人が押し寄せてしまいます。世の中の流れが地方創生に向いている中、SNSともリンクしています。私が同じことをしてはいけないと思ったのです。そのため、撮影する場所を特定させたくないとの考えから、隠しはしませんが積極的には地名を押し出してはいません」

撮影にあたりテーマのひとつは「外国っぽく見える」こと。また、人の手が入りすぎても入らなさ過ぎてもいけない。実際に彼女の作品を見ると、小さくても、どこかに看板や小屋など人工物が写り込んでいる。また、スニーカーでも行ける場所であることやお年寄りが周辺に住んでいる環境というのもポイント。危険を冒してまで行く場所ではなく、生活圏にある風景でお年寄りが足を運べる程度の要素を意識しているそうだ。


林田さんの旅先スナップ 「新潟・越後妻有」

神社の鳥居が埋まるほどの豪雪地帯だ

越後妻有のあまりのお米のおいしさに友人と農家さんから直接お米(とアスパラガスも)を購入

現地で雪下にんじんの美味しさに気付いたそうだ


暮らしの中に豊かさをあること伝えたい

「ネット上で話題になる土地だけが魅力のある場所ではないのです。見た人に各地へ足を運んでほしいとの思いは持っていますけど、それが写真のいちばんの目的ではありません。自然と人との共生が重要だし、土地を放置しているのはよくないとわかってもらえれば。撮影している場所はレジャーとするにはお店もないし、行楽の要素もない。写真は旅の目的を示していて、日本人が昔から続けてきたこと(暮らし)に本当の豊かさがあることを伝えたいのです。都会の人に対して(旅先は)こういう場所でいいんですよと」

林田さんの撮影した風景は、特定の場所を指し示しているのではなく、本当の豊かさを感じる風景の目安にすぎない。地方創生をしようとしている人たちには、こうした風景に過度に手を加えなくていいと知ってほしいとの思いも彼女にはある。

「トイレや道路のインフラは必要ですが、人を呼ぶためにレジャー施設を作ったり、大きなイベントを企画したりするのは間違っているような気がします」と現在の地方創生のあり方に疑問も投げかけている。


林田さんの旅先スナップ 「香川・豊島」

豊島で宿泊したゲストハウスmammaでの朝食

ゲストハウスmammaで撮影。写っているのは夕食


さまざまな地方の表情が見える林田さんのプロジェクト

ここまでに紹介した林田さんの活動は、「JAPAN-GO-ROUND」と名付けられたプロジェクト。しかし、林田さん独自の視点を通じたプロジェクトは、このほかに2つある。

風景が持つ魅力の本質に迫る

ひとつは写真活動を始めるきっかけとなった小値賀のプロジェクト「THE PACIFIC TOURIST」。彼女自身の作品とアメリカの古いアーカイブ写真をミックスして手作りの一冊の写真集に仕立てている。本はまるで何十年も前のもののような古めかしい装丁。彼女の琴線に触れる風景が統一感を持って紹介されているので、国や地域の枠組みを意識せず風景の魅力の本質を見ている側に提示する。

MAKI HAYASHIDA’S ARTIST BOOK “The Pacific Tourist” is now available! from REMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLD on Vimeo.

地方が抱える問題に踏み込む ”アートの島”豊島の光と陰

もうひとつの「A Voice in the Wildness」は、地方の抱える問題に踏み込んで社会に訴えかけるものだ。

こちらはひとつの土地だけにフォーカスをした写真を集めたプロジェクトで、その土地は香川県豊島(てしま)。

香川県のアートの島としてお隣の直島をご存じの方は多いだろう。豊島は直島に次いで、現在アートの島として注目を集めている場所。両島には外国人観光客も多く訪れ、洗練されたイメージを持っている。しかし、林田さんは現状に至るまでの豊島の困難な道のりにスポットを当てた。実は豊島は戦後最大級と言われた公害問題を長い間抱えていたのだ。

「豊島はかつて産業廃棄物の持ち込みと不法処理の問題を抱えていました。問題が露呈したのは1970年代で、1990年代に兵庫県警が業者を摘発したもののごみは手つかずのまま放置されました。その後、島の人たちの努力によって2000年に公害調停が成立し、廃棄物は直島の処理施設に運ばれて20176月に処理が完了しました」

※豊島問題の詳細(香川県のHPリンク


林田さんのギャラリー「A Voice in the Wildness


豊島を訪れた林田さんは自分たちの生活のかげで無関心でいた問題を、自身の作品と島の当事者が撮影した写真を通じて伝えようとしている。ゴミの多くが自動車のシュレッダーダスト(細かく粉砕したもの)だったことからも、知らない土地の問題ではなく、私たちの生活のなかで起こったこととしてとらえるべきだと考えたのに違いない。

「アートに興味を持って島を訪れた人に恐怖を訴求するのではなく、関心を持ってほしい。今後は当時の住民の活動と私の写真を集め一冊の本にしようと考えています」

豊かさに気づく視点を共有したい

このように、いくつものプロジェクトを通じ、地域の豊かさを探り、伝えようとする彼女の活動は実に興味深い。また、単なる町おこしとは異なり、豊かさに気づく独自の視点を人々と共有しようとしている姿勢は、新しい地方とのかかわり方といえそうだ。今後も、彼女のクリエイションから、目が離せない。

 

Information

林田真季さんの写真展「KIYOSUMI-GO-ROUND」が東京・清澄白河で展示される。この写真展は隅田川沿いのリノベーションホテル LYURO のオープン 1 周年を記念したもの。会期前半と後半で異なる展示を行うアイデアもユニークだ。

会期前半の『KIYOSUMI-GO-ROUND』では、清澄界隈の情報をウェブサイトやSNSで発信し続けている謎のガイド「清澄白河ガイド」さんと、この展覧会のために撮り下ろした清澄白河の風景を紹介する。青い旗を持った「清澄白河ガイド」さんが必ずどこかに写り込んでいるという、少しシュールなシリーズ作品を通して、清澄白河の魅力を伝える。

会期後半は、日本各地の里山・里海の風景を切り取ったシリーズ『JAPAN-GO-ROUND』より、水辺のある風景を展示。今回は新作・旧作から水辺の作品のみを選りすぐり、紹介される。

開催概要

日時:201852日~31日、61日~30日 7:0023:00  ※最終日630のみ15:00まで

会場:THE SHARE HOTEL LYURO 東京清澄(住所:東京都江東区清澄1丁目1-7 TEL:036458-5540)  

https://www.thesharehotels.com/lyuro

アクセス:半蔵門線「水天宮前」駅4番出口より徒歩10分/半蔵門線・大江戸線「清澄白河」駅A3出口より徒歩10

写真提供/林田真季さん

取材・文/Beautiful Camping
【PROFILE/Beautiful Camping(ビューティフルキャンピング)】
本業はメンズファッション誌、ファッション広告の編集・執筆。2011年春から、キャンプ空間をスタイリッシュに演出する楽しみ方「ビューティフルキャンピング」を広めようと活動中。
HP http://beautifulcamping.net/
Facebook https://www.facebook.com/BeautifulCamping
Instagram https://www.instagram.com/beautiful_camping/


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